日本の経済は本当に成長していると言えるのか?

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会社の業績は上向き!という会社トップからのメッセージ。でも、給料ってあがらないじゃんかよ!多くの会社被用者の不満ではないでしょうか。さらに現役世代が豊かにならないとリタイア世代にも回ってきません。

日本の名目GDP

まずは名目GDPの上位5ヶ国を見てましょう。

データ出典はIMF DATAMAPPERで2021年の数値です。

順位国名名目GDP
(単位:兆US$)
割合
1アメリカ22.9424%
2中国16.8618%
3日本5.15%
4ドイツ4.234%
5イギリス3.113%
全世界94.94
出典:World Economic Outlook (October 2021) – GDP, current prices (imf.org)

日本の名目GDPは世界第3位ではありますが、2位の中国、1位のアメリカとは超えられない壁がありますね。名目GDPなので人口も大きな要素ではあります。一人あたりGDPについては後ほど見てみます。

計算してみると上位4ヶ国で全世界名目GDPの半分以上を占めていますし、アメリカと中国だけで全体の40%以上を占めています。

ではこれが過去と比較してどれくらい成長したのでしょう?

国名1991年2021年成長率
アメリカ6.1622.94372%
中国0.4116.864,112%
日本3.665.1139%
ドイツ1.884.23225%
イギリス1.253.11249%
出典:World Economic Outlook (October 2021) – GDP, current prices (imf.org)

1991年から2021年までの30年間に中国の異常な成長率は別として、米独英とくらべてダントツの低さであります。アメリカは4倍近い伸び、ドイツ、イギリスが2倍を超える名目GDPの伸びを記録しているのに、日本は1.5倍にもなりません

日本の一人あたり名目GDP

名目GDPを人口で割り算した結果が一人あたりGDPでありまして、比較的生活実感に近づく数字だと思います(筆者の個人的に感想ですが…)

人口の単位は百万人、GDPの単位はUS$です。

国名人口(1991年)一人あたり
GDP
人口(2021年)一人あたり
GDP
伸び率
アメリカ253.3924,310330.6669,376285%
中国1160353142011,8733363%
日本123.9345,767125.3740,67988%
ドイツ79.9723,50983.2950,786216%
イギリス57.4421,76167.2846,224212%
人口データ出典:World Economic Outlook (October 2021) – GDP, current prices (imf.org)

上記の一人あたりGDPはIMF公表のデータに基づき、筆者が単純計算で名目GDPを人口で割り算しだだけのものであり正規の数値ではありませんが、ざっくり当たらずといえども遠からずのハズ。

驚くのは日本の一人あたり名目GDPは成長どころかシュリンクしています。

これは物価変動・為替変動などを考慮しないその時点での素のGDPでUS$で表現しているからこうなるようです。

日本について別のデータを見ます。

内閣府発表の一人あたり名目GDPです。

一人あたり名
目GDP(千円)
20054,181
20103,943
20154,255
20204,259
出典:一人当たりGDPを参照したい – 内閣府 (cao.go.jp)

全然伸びていません。

一人あたり名目GDPでIMFの統計を見るとルクセンブルクとか言った人口の少ない国がトップに躍り出ます。

これは人口が少ないゆえの特殊性があると考えあれます。

人口63万人のルクセンブルクと、人口1億2千万人を超える日本の一人あたりGDPを同列に比較すべきではありません。

問題は順位よりも伸びのなさです。

名目GDPも伸びず、人口も減少に転じているぼちぼちでんなぁの状況ですから、一人あたりGDPが劇的に伸びようはずもなく、我々庶民の感覚として生活が豊かになっている実感は全く感じら得ないわけです。

GDPがぼちぼちでも人口と労働時間が減少しているのだから、立派に生産性は伸びているという意見があるのは事実です。

数字の見方としては正しいと思いますが、労働者の生活実感として30年前と比べれ豊かになったという感覚がどれほどありますか?こうした生産性などは実質伸びているという言葉に騙されるべきではありません。

政治家のPRではないのですから、生活実感として確かに伸びているという感覚を得ることが重要だと思います。

賃金の伸び

今度は別の側面で労働者の賃金の伸びについてみたいと思います。

全労連が公表している実質賃金指数の推移を見てみましょう。

勝手に転載できませんので以下のリンクをクリックしてみてください。
(全労連が公表するデータ(PDF)へのリンクです)

実質賃金指数の推移の国際比較(1997年=100)

1997年の賃金を100としたときの2016年の指数です。

比較のためにGDPと同じ国(中国以外)を見てみましょう。

国名2016年の賃金指数
(1997年=100)
アメリカ115.3
日本89.7
ドイツ116.3
イギリス
(製造業)
125.3
データ出典:::全国労働組合総連合(全労連):: (zenroren.gr.jp)

労働者が実際に受け取った給与である名目賃金から、消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した指数。労働者が給与で購入できる物品やサービスの量を示しており、個人消費の動向にも影響します。厚生労働省が毎月勤労統計調査で公表しています。

出典:わかりやすい用語集 解説:実質賃金(じっしつちんぎん) | 三井住友DSアセットマネジメント (smd-am.co.jp)

アメリカやドイツが15%増えているのに対して日本は10%減っています。

言い換えれば、1997年の時点で同じ年収400万円だったのが、2016年にアメリカは461万円になっているのに日本は358万円となってしまっていて、その差は1.29倍に広がりました。

これは一人あたり名目GDPの状況と比べても反しているとはいえません。

中小企業庁のデータによれば大企業の売上高経常利益率は1980年代が2.37%に対し2010年以降は4.51%と絶対数が小さいとはいえ大きく伸びているのに対し、小規模企業は1.19%のままかわっていません。中規模企業は1,90%から2.42%と僅かですが伸びています。

同じく中小企業庁のデータによれば、全従業者数4,013万人のうち23%が小企業で、残りが中規模以上の企業です。

すなわち前従業者数の7割が属する中規模以上の企業で売上高経常利益率は伸びているのに、実質賃金指数は横ばいどころか減少しています。

内部留保と生産性

いろいろな見方ができるとは思いますが、筆者が思うには企業の内部留保が増加しているのではないかということです。

もう一つ考えられるのは生産性が上がっていないのではないかということです。

財務省の資料(企業の財務構造の長期推移)によれば1989年から2017年に内部留保額はおよそ3倍に膨れ上がっていますが、内部留保率(内部留保額/当期純利益x100)は大して変わっていません。

このようにして膨らんだ内部留保が必ずしも悪であるわけではなく、M&Aや設備投資に回されて成長に繋がっているから正義なのだというのは企業経営としては正常な状況だといえます。

それはそれで問題ないのですが、M&Aや設備投資はバンバンやるけど、給料には反映されないというのが実感として労働者がヒシと感じることが大きな問題なのです。

これはES(従業員満足度)の低下につながり、ES低下は長期的に業績低下につながります。

労働者
労働者

うちの会社は企業買収とか設備投資をバンバンやるんだけど、給料は5年前からほとんど変わっていないんだよなぁ福利厚生も削られているようだし。やる気なくなるよなぁ。

こんな思いの人は多くありませんか?

働き手がこういう感覚を持つことが大きな問題です。

生産性についていえばGDP成長は鈍化していても、年間労働時間はバブルの頃の徹夜連続に比べると大幅に短縮されていますから、その意味では生産性は向上していると言えます。

しかし、水面下にはブラックな状態、サービス残業蔓延があることは否定できません。

労働者の犠牲のもとにかろうじてGDP3位を維持しているのが日本なのかもしれません。

働き手の意識変革

こうした企業経営に文句を言うのは自由だし、意見を持つのは大切です。

一方で労働側も従来の日本企業の安定雇用姿勢に甘えていませんか

成長しているアメリカは御存知の通り、成果が上がらなければクビを切られます。現場のMgrの判断でクビを切ることも不可能ではありません。

対して、日本では労働者は手厚すぎるくらい手厚く守られており、たとえ上司が「お前はクビだ!」土叫んでもクビにはできませんし、それどころかその上司は逆にパワハラで訴えられます。

努力して成果をあげればリターンもそれなりなのがアメリカですが、日本では昔ほどではないですが、まだまだぬるま湯で成果主義の徹底には程遠い状況です。

見方を変えれば、日本の労働者は甘やかされて育ってきたと言えます。

こうした環境に満足できない人は、自らの向上とさらに上の待遇を求めてステップアップしていくわけです。

労働側にも伸るか反るかくらいの掛ける意識は必要だと思います。

安定を望んできたのはいわば保険を求めるみたいなもので、それが保険料として本来の賃金上昇に充てられているということもできるかもしれません。

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